5章

ダンサーと教育者はまったく違う。


プロのダンサーと教育者はやはり違うと私は思う。上手にバレエができていても、教える事がうまいとは限らない。教育者はやはり、今までやってきたものを、フィーリングではなく、言葉として、又、自分の身体でみせなければならない。自分の身体で、こうだよ、と教える事は現役ダンサーなら簡単なことである。しかし、それによって柔らかい頭を持った子供たちは、指導者の癖まですべて真似してしまう恐れもある。有名な指導者、ワガノワは、自分の癖が生徒にうつる事を恐れ、自分が動いて指導する事は一度もなかったという。又、指導者が歳をとった場合、カタチでみせることは困難になってくる。そのときに必要になってくるのが、やはり的確な言葉と、熱意である。明確な表現で、子供に指導をする。それに対して、最後まで諦めない熱意が大切だと思う。
そして、日々のレッスンで何かを習得する事。これは、子供にも、指導者にも言えることである。私の経験からいくと、テンションが落ちていて、教えをしたくないなぁと思っている日、大雨の中自転車で傘をさしてくる小学生の子供をみた時に、両親が送りにこれなくても、バレエを習いたいと一生懸命に来る姿、この気持ちが指導者の責任を再確認させているように感じた。子供たちが日々レッスンで学ぶように、指導者も何かを日々確認しつつ、学んでいかなければならないと思う。プロであっても同じ。毎日のレッスンに慣れるのではなく、日々何かを感じ、向上していかなければならないのである。そのために、リフレッシュの時間もきちんと自己管理してゆかなければならない。
・教育者のありかたと責任。
先日、知りありの紹介で、全国にスポーツジムなどををだしている会社の社長とお話する機会があった。最初は典型的なビジネスマンに見え、話すことから、考えることまで、シビアで、私たちの求めているものからはかけ離れていると思った。しかし、話を進めていくいくうちに、会社に対してビジネスとしてシビアなところと、又、その中に愛があるように思えてきた。彼が最初に会社を立ち上げてから、今のような状態になるまで、とてつもない苦労と、血の滲むような努力をいとも簡単な事をしてきたかのように語ってくれた。その中の話で、武道や、華道や茶道、書道、柔道、そういった日本の伝統的なものには、道という字がどうしてついているのだろうか。という話をしてくださった。最初はいくら調べても分からなかったそうだ。しかしあるとき、たまたま立ち寄った本屋で、偶然にもその疑問にまつわる本を見つけた。人間の力とはすごいものです。さて、そこに書いてあった事、道というのはまっすぐで終わりがない。だから永遠に先に進まなければならない。道の反対語は路地だそうです。路地は行き止まりがあります。人生は路地ばかりだけれど、いつかは道にでなくてはいけないんですよ。とおっしゃっていました。だから、常に追求し、日々前進していかなければならない。私たちも、自分自身のバレエ道に、いつかははいらなくてはいけないなぁと思った。
もう一つは、経営者として、又、組織のトップに立つものとしての考え方を教わりました。それは、自分の持っている知識や、今まで培ってきた技はきちんと人に伝えなさい。ということです。もったいぶって人に教えなかったり、お金のことばかり考えていては、絶対に自分が損をする。ということだった。出入り口が、入り出口と言わないように、出るから入ってくるのだそう。一度自分を殻にしないと、新しい事は入ってこない。教育者も同じだと思いました。トップに立っているからこそ、それなりの責任がある。生徒が吸収する事その倍以上に、教師も日々何かを学ばなくてはいけないのだとひしひしと感じました。以前にも同じような事を聞きました。たらいの中の水を、自分の方へ、手で引き寄せようとすると、自然に水はその端から逃げていくそうです。反対に、向こうへ水をやろうとすると、水は自然にこっちへくるそうです。ビジネスも同じだと言っていました。人に何かを与えない限りは、自分には何も返ってこない。
生徒を目の前にするとついつい怒ってばかりなのですが、きちんと向き合って、同じ目線で、何か解決方法や向上へのアドバイスをする事、そこにはいつも、相手に対しての愛がなければならないと思います。指導者が、技、テクニックを指導するのはあたりまえです。それに加えて、心の豊かさを子供たちに勉強させるのも大事であると思いました。
パリ・オペラ座の校長でもあるクロード・ベッシーさんが、バレエ団でエトワールを選ぶとき、テクニックはもちろんですが、そこで決めるのではない。と言っていました。その子の全部を見るのだと。全部をみて、ピンとくる何か、言葉ではあらわせない何かを感じた時に、エトワールは選ばれるのだと。私はその何かが、テクニックだけではなく、心の豊かさ、人間としての誠実な愛であって欲しいと思っています。

・様々なバレエ団の教育方針を参考
さて、今日本には様々なバレエ団があります。最近では、ロイヤルバレエ団のプリマだった吉田都さんが退団し、日本に戻ってきました。9月からは、熊川哲也ひきいる、Kカンパニーに入団されたそうです。このよにみてみても、日本のバレエ界は進化し続けています。Kカンパニーもそうですが、日本ではバレエ団があるところでは、ほとんどスクールというのがついています。ただ、学校ではないので、毎日あるわけでもなく、子供たちは学校が終わってから行きます。そこに行っていても、カンパニーに入るにはやはりオーディションというものがあります。しかし、バレエ教室とは違い、やはりプロを目指す子供たちが来ているのですから、多少は厳しいと思います。そして、教師群もそろっているといえます。しかし、今はバレエをやる人数も増え、誰でも教えができることによって、マイナス面では、教師の力不足も言われています。時には、バレエ教室のほうがいい場合もあります。
やはり、子供たちには安心して学べる環境をもっと提供してあげるべきだと思います。